【艦船シリーズ】1 商船の防人―海防艦

太平洋戦中、日本の商船隊が断末魔に喘ぎながら決死の航海するに当たり、その護衛任務を担い戦いの中で多くが海の藻屑に消えていった防人「海防艦」を今回取りあげます。

戦前の帝国海軍は “艦隊決戦” に主眼をおいた連合艦隊の編成と、それを構成する艦艇の建造を第一主義としました。
すなわち、長射程の巨砲を搭載させた主力戦艦群とそれに随伴し魚雷攻撃をする巡洋艦や駆逐艦からなる水雷艦艇を多数建造することで敵艦隊を圧倒させようとしたのです。
この考えはいわゆる “大艦巨砲主義” とも言われ、日本のみならず戦前のアメリカ海軍も例外ではなく、海軍戦略論書『海上権力史論』(A.T.マハン:Alfred Thayer Mahan〔1840?1914〕)の影響が非常に大きいとされています。

日露戦争の日本海海戦で圧倒的勝利を得ていた帝国海軍は、“連合艦隊の充実” とも取れる兵力整備に勤しみ、それ以外の直接的な対艦攻撃用ではない兵器(艦艇)の研究や開発などには消極的であったと言わざるを得ません。
例えば、商船保護の海上護衛に関していえば、無策無理解であったといっても過言ではなく、保有していた艦艇中、一番護衛任務に適しているだろうと思われる「駆逐艦」は重武装な艦隊随伴用として扱われ、「護衛艦」という艦種の概念すらありませんでした。
その結果、昭和16(1941)年12月の日米開戦時点において、商船護衛任務を与えられ、北方海域警備用から転用された「占守型」海防艦(860トン)が僅か4隻しかないという有様でした(戦前、我が国の海防艦の役割そのものが北洋での漁業保護で主に旧式艦が担当した)。
しかしながら、開戦後のハワイ海戦(真珠湾攻撃)とマレー沖海戦において、帝国海軍は自ら「海戦の雌雄を決するのは航空攻撃である」と見せつけ、「大艦巨砲主義」の終焉を改めて世界に知らしめたのでした。
それは同時に、戦地を航行するあらゆる船舶が常に空からの脅威にさらされることを意味し、無防備に等しい商船は、例え制海権内での航行でも安全とは言えなくなりました。
また、海中に身を隠す敵潜水艦からの雷撃にも備えなくてはならず、商船を護衛する専門艦の必要に迫られました。
そこで、駆逐艦(米海軍には船団護衛用に「護衛駆逐艦」(Destroyer Escort)と言う艦種があった)よりも小型で扱いやすい北方警備用の「海防艦」を輸送船団護衛用に転用することに期待が高まり、既存の「占守型」を改良もしくはベースにし、南方航海向けにした小型艦艇を大量建造することとなりました。

以下に帝国海軍が大戦中に建造運用した「海防艦」の概要を記します。
※注意 兵装その他スペックは同型でも改装等により若干の差異が見られます。

【占守(しゅむしゅ)型 E15甲型】

北方海域、すなわちオホーツク千島海域での漁業保護を主任務とした小型警備艦で、耐寒耐氷性能に優れ、小型艦ながら復元力良好で北方の荒れた海での運用には適していた。また、航続距離も8000浬とかなり長大であった(同時期の陽炎型駆逐艦(2000トン)は5000浬)。
反面、南方海域で運用する船団護衛艦としては問題が多かった。また、対潜対空兵装も不完全で、日米開戦後に対空機銃や爆雷投下装備を強化改造した。
建造期間:昭和15年6月?16年3月
基準排水量:860トン 全長・全幅:76×9.1m 速力:19.7ノット 航続力:16ノット(8000浬)
主な兵装:12センチ砲3門 25ミリ機銃4挺 爆雷投射機1基 爆雷投下台1基 爆雷18個
同型艦:4隻(占守 国後 八丈 石垣●) ●:戦没

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【択捉(えとろふ)型 E19甲型】

択捉型

日米開戦に備えた戦力整備計画、『昭和十六年度戦時建造計画』(マル急計画)中に盛り込まれた海防艦保有計画により建造された型で、想定される南方海域での船団護衛を目的とした。しかしながら「占守型」を原型に簡易化した設計だったため、必ずしも南方海域での運用には適していない。また対潜対空兵装も弱い。
建造期間:昭和18年3月?19年2月
基準排水量:870トン 全長・全幅:77.7×9.1m 速力:19.7ノット 航続力:16ノット(8000浬)
主な兵装:12センチ砲3門 25ミリ機銃4挺 爆雷投射機1基 爆雷投下台1基 爆雷36個
同型艦:14隻(択捉 松輪● 佐渡● 隠岐 六連● 壱岐● 対馬 若宮● 平戸● 福江 天草● 満珠 干珠● 笠戸) ●:戦没

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【御蔵(みくら)型 E20甲型】

「択捉型」の対潜兵装強化型。また主砲が、それまでの平射砲から高角砲に改められた。
建造期間:昭和18年10月?19年5月
基準排水量:940トン 全長・全幅:78.8×9.1m 速力:19.5ノット 航続力:16ノット(5000浬)
主な兵装:12センチ高角砲3門 25ミリ機銃4挺 爆雷投射機2基 爆雷投下軌条2基 爆雷120個
同型艦:8隻(御蔵● 三宅● 能美● 倉橋 屋代 千振● 草垣●) ●:戦没

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【日振(ひぶり)型 E20b甲型(起工時乙型)】

「御蔵型」を簡略設計にした工数短縮型。建造工期がそれまでの9ヶ月から4ヶ月と大幅に短くなったと言う。
なお四番艦「生名」は戦後、海上保安庁巡視船へ改装。
建造期間:昭和19年6月?20年8月
基準排水量:940トン 全長・全幅:78.8×9.1m 速力:19.5ノット 航続力:16ノット(5000浬)
主な兵装:12センチ高角砲3門 25ミリ機銃4挺 爆雷投射機2基 爆雷投下軌条2基 爆雷120個
同型艦:11隻(日振● 昭南● 久米● 生名(戦後海保巡視船「おじか」となる) 崎戸 目斗● 四阪 波太 大津* 友知*) ●:戦没 *:未成

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【鵜来(うくる)型 E20b甲型(起工時乙型)】

鵜来型

「日振型」とほぼ同じ簡略設計で建造期間も同時期。しかしながら本型は、帝国海軍が運用した海防艦中最も完成度が高く、兵装も充実しており損失率も少ない。対潜兵装として、それまでの単艦型の九四式爆雷投射機から、高性能小型の三式爆雷投射機に改められ、両舷16基装備した。さらに九三式水中聴音機と九三式水中探信儀を標準装備し、それらで得られたデータを解析することで不完全ながらも敵潜を捕捉できた。
なお一番艦「鵜来」、五番艦「新南」、一九番艦「志賀」の三隻は戦後、海上保安庁巡視船へ改装。
建造期間:昭和19年6月?20年8月
基準排水量:940トン 全長・全幅:78.8×9.1m 速力:19.5ノット 航続力:16ノット(5000浬)
主な兵装:12センチ高角砲3門 25ミリ機銃6挺 爆雷投射機16基 爆雷投下軌条1基 爆雷120個
 水中聴音機・探信儀を標準装備
同型艦:22隻(鵜来(戦後海保巡視船「さつま」となる) 沖縄 奄美 粟国 新南(戦後海保巡視船「つがる」となる) 屋久● 竹生 神津 保高 伊唐 生野 稲木● 羽節 男鹿● 金輪 宇久 高根 久賀 志賀(戦後海保巡視船「こじま」となる) 伊王 蔚美* 室津*) ●:戦没 *:未成

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【第一号海防艦 E21b丙型】

第一号

戦時急増艦で「日振型」をさらに小型簡略化した。戦時標準型輸送船と同様ブロック工法と電気溶接を巧みに多用し量産化を図った。機関は潜水艦用ディーゼルを転用。艦名は第一号海防艦以下奇数番号で呼ばれた。
戦標船と共に品質管理を差し置いた粗製濫造船の代表のように言われているが、生産性向上を目指した各種工法は、戦後造船技術の礎となり、我が国の造船海運業に多大な功績を残したことは間違えない。
建造期間:昭和19年2月?20年6月
基準排水量:745トン 全長・全幅:67.5×8.4m 速力:16.5ノット 航続力:14ノット(6500浬)
主な兵装:12センチ高角砲2門 25ミリ機銃6挺 爆雷投射機12基 爆雷投下軌条1基 爆雷120個
同型艦:56隻(うち3隻は戦後引揚船として完成 計画133隻) 戦没艦26隻

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【第二号海防艦 E22丁型】

第一号海防艦とほぼ同じ設計で建造工程も同じ、機関を商船用タービンにした。海防艦中67隻と最も建造数が多い。艦名は第二号海防艦以下偶数番号で呼ばれた。
建造期間:昭和19年2月?20年7月
基準排水量:740トン 全長・全幅:69.5×8.6m 速力:17.5ノット 航続力:14ノット(6500浬)
主な兵装:12センチ高角砲2門 25ミリ機銃6挺 爆雷投射機12基 爆雷投下軌条1基 爆雷120個
同型艦:67隻(計画143隻) 戦没艦25隻

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引用参考文献:
(1)『別冊歴史読本第18(414)号 日本海軍軍艦総覧』新人物往来社、1997年7月18日発行
(2)『別冊歴史読本第57(255)号 日本海軍総覧』新人物往来社、1994年8月11日発行
(3)『連合艦隊の生涯』堀元美・阿部安雄 朝日ソノラマ、1993年3月10日発行
(4)『25歳の艦長海戦記』森田 友幸 光人社、2004年11月13日発行
(5)『商船戦記』大内 建二 光人社、2004年12月12日発行

●本戦記関連の記事は、私imakenpressの独自考察や推察推測、思考など多分に含んでいます。
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